銀輪日報

本と自転車旅とB級グルメ

週末の小さな大冒険その3(大弛峠~金峰山~中津川林道)

2019.10.05-06 

 

 

山小屋の朝は早い。朝食は5時半。ご飯を食べて皆へ挨拶し早々に出発した。東の空のみ青空が垣間見えるが、ほかの方角は雨雲だ。天候は微妙。神様次第。僕はカーキ色のカーゴパンツにコットンのブラックTシャツとマウンテンバイカー風にワイルドにキメた。


しかし僕を迎え撃つ川上牧丘林道のダートはもっとワイルドだった。ハードグラベルの路面は崩れ落ちた岩だらけ。走行ラインが全然読めない。

 

 

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無理ゲー

 

 

峠から数キロは聞きしに勝る悪路。バカでかい石がゴロゴロ、ガレまくり。多摩川の河原みたい。僕のしょぼいテクと街乗りマウンテンバイクでは完全に手が余る。サドルを思いっきり下げて、半ベソをかきながらおっかなびっくり少しずつ下っていく。


急ぐ必要はない。安全第一。

 

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ピンと張りつめた朝の冷たい空気に息が白くなる。カモシカの親子が横切っていく。遠くジェット機の音が聞こえるくらいの静寂に包まれる。完全に僕だけの世界だ。贅沢な時間だ。

 

難所を過ぎ、ようやくミディアム~ヘビーグラベルと言えるような路面に落ち着いてきた。少しずつ慣れてきて大分乗れるようになってきた。ちょっと怖いが美しい景色にテクニカルなダウンヒル。楽しい。

 

 

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と油断したとたん、前輪を取られ派手に落車。ラッキーなことに体にも機材にも深刻なダメージはなし。ホント神様に感謝した。

 

標高を下げるにつれガスが濃くなってきた。要は雲の上から雲の中に突入。静寂で美しく幻想的な林道のコーナーを次々に駆け抜ける。

 

 

1時間強でダートはクリア、橋を渡るとターマック。ちょっとほっとした。

 


東股沢の清流が美しく、ここで大休止した。泥だらけになった機材や服をすこしきれいにし、冷たい水で顔や手を洗った。膝からは血が出ていたが、擦り傷だからそのままでも大丈夫だろう。

 

 

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山道が終わり道路沿いの畑では残り少ない野菜の収穫を行っていた。収穫期も終盤で冬の準備がはじまる気配を感じた。
気づいてみると家や車やトラクターがみんな大きい。裕福な農村だ。日本一のレタス王国川上村の苦労と実力を垣間見た。


香ばしい堆肥のにおいがする見晴らしのいい開けた畑の真ん中で小休止。夏に来たらさぞかしさわやかな場所であろう。

 

あらかじめスマホにダウンロードしておいた川上村観光ガイドを確認して何か興味深いところがないか探した。特に前もって計画していなかったが村の豊かさにこの土地への興味がわいた。電波はつながるものの4Gの表示はない。昨日からデジタル・デトックス状態だ。たまにはいい。旅に集中できる。

 

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一瞬素通りしかかったが2度見した

 

村の中心はここから12kmほど西の信濃川上駅周辺部のようだ。往復・観光を入れると1時間半。しかし、林業総合センター、大深山遺跡、郷土資料館と正直パットしない。まだ8時前で開館していないだろうし。

 

僕は予定通り三国峠を目指すことに決めた。県道68号線にそって進むとヤマザキショップがあった!道中はじめてのそして唯一のコンビニだ。さすがに品揃えは日持ちのするものに限られており、弁当おにぎり、菓子パンというような定番アイテムはなかった。コーヒーを買って一服した。

 

 

長野からの三国峠へのアプローチはターマック。時折モトクロスライダーとすれ違う程度の閑散とした山道だ。ヤマからおりてだいぶん暑くなってきたので、短パンとポリエステルのランニング用シャツに着替えなおしヒルクライムに取り組んだ。

 

 

9時22分とうとう三国峠を踏んだ。稜線に切り込みを入れるように切通しの峠。これぞ峠という感じだ。振り向くと川上村が遠く眼下に見える。ずいぶん上ったもんだ。

 

峠の向こうの秩父側にあこがれのあの看板「三国峠、標高1740m」があった。その横には、大書きで「このさき18km悪路注意。未舗装」との注意書きがあった。望むところよ!

 

 

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再度カーゴパンツに着替えなおし出発。ライト~ミディアムグラベルの快適なダート道。楽しい!驚くべきことに18kmずっと下り。登り返しの必要がない。本当に楽しい第一級のルートだ。ターマックに抜けてからも中津川渓谷沿いを右に左に下り基調で高速走行を楽しめる。

 

 

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いつの間にか大御所シェリルクロウ姐さんの骨太大ヒットナンバー、エブリディ・イズ・ア・ワインディングロードを口ずさむご機嫌な快走路だ。ややアブナイ人になりつつあった。

 

 

 


途中、滝沢ダムダムカードをゲット。その先のループ橋の雷電廿六木橋(らいでんとどろきばし)で土木技術に驚嘆した。圧巻の風景だ。

 

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三峰口駅で小一時間電車を待った。駅前の食堂で缶ビールで祝杯を挙げた。充実感と心地よい疲れ、そしてビールの酔いでウトウトした。僕の乗る西武秩父線は単線をガタゴトのんびりと飯能へ向かっていた。週末の小さな、しかし僕にとっての大冒険は終わりに近づいた。

 

 

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萌系。修行が足りず僕はまだ覚醒できていないが、多様な文化は素晴らしいことだ


 

 

 

 

イントゥ・ザ・ワイルド KLMBH #209 @Bukit Kiara

2019.01.29 

 

僕は赤道直下のクアラルンプールに住んでいたことがある。マレーシアはボルネオ島マレー半島の諸州によって構成される連邦国家だ。半島マレーシアの面積は日本の3分の1の約13万平方キロメートル。人口は2000万人。都市部以外はパームヤシやゴムのプランテーション熱帯雨林の原生林が広がる。

 

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物価は安く食事はうまい。南方特有の楽天的でフレンドリーな国民性。朝は快晴で夕方にスコールがどっと降るほぼ毎日同じのわかりやすい天気。暮らしやすい国だ。実際多くの日本の年金生活者が移り住んでいる。

 

 

そして僕にとって嬉しいことに未舗装路やシングルトレイルを存分に楽しめるMTB天国なのだ。

 

 

僕は地元のサイクリングクラブに入り辛抱強く時間をかけて少しずつ溶け込んで仲間を作った。毎週末いろいろなトレイルを駆け回った。朝7時に集合、30km前後のトレイルを走ってお昼を食べて解散。年に数度はお泊りライドにも出かけた。

 

 

僕はハッシュハウスハリアーズというゲームを知った。もともとはその地に暮らしていたイギリス人がうまいビールを飲みたい!という極めて純粋な動機から立ち上げた由緒正しいランニングクラブだ。「ヘアー(野うさぎ)」と呼ばれるコース設定者が「ハリアー(猟犬)」役の参加者が追いかけていくという鬼ごっこ

 

本来ランニングで行うのだが、大好きなマウンテンバイクを使って楽しんでしまおうというクラブがあり毎回100人以上を集める。月一回最後の日曜日のお楽しみだ。

 

まずはブリーフィングでライドの概要を伝えスタートだ。


ヘアーは先にスタートし小麦粉でマーキングしながらルートを作っていく。途中数箇所、チェックポイントというマーキングをわざと分断した分岐ポイントを設定する。みんなで正しいルートを探し出して追跡を続けるわけだ。ルートを発見するとオン!オン!(On!On!) と叫び皆に知らせる。皆もオン・オンと周りの追跡者にルートが繋がったことを知らせていく。その声がジャングルにこだまする。自然にお互いを助け合う参加者の一体感が醸成され結構楽しい。

 

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ペーパートレイル

 

 

鬱蒼としたジャングルをコースとするので流石に即興でマーキングし、追跡経路を作っていくことは難しい。事前にヘアーが現地でレッキ(試走)しコースを作ってしまう。小麦粉だと雨で流れてしまうので紙を目印として撒いていく。これをペーパートレイルという。このコース設定が腕の見せ所だ。

  

ゴールするとビールやスポドリで乾杯。遅れた仲間を待ちながらだらだら帰りの支度を始める。そして途中食堂に寄り皆で料理をつつきあーだこうだとしょうもない冗談と笑いで日曜の午後のひとときを過ごす。

 


味気ない東京のコンクリートジャングルに戻った僕にとってはもう思い出すことも少ない、少しずつ薄れていく古き良き遠い日の思い出だ。

 

 

 

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おつかれ!ゼッケイを楽しんでってくれ

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渡河はみんな大好きなアトラクションだ

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マカン(食べる)ハウス

 

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イントゥ・ザ・ワイルド

 

www.klmbh.org

 Eddie Vedder - Guaranteed (Into The Wild)

 

 

Happiness only real when shared.
Chris McCandless 1968-1992

標高2000mの信州美ヶ原で高山病にかかりまさかの敗退

 2016.09.13 68.7km

 

 

激坂ルートの美ヶ原林道をヨチヨチ登っていたら使い古したキャメルバックのリザーバーバッグのそこが抜け冷却水全喪失という不測の緊急事態に陥った。機材不良による敗退を考えたがここまでの時間と労力と経費がもったいなさすぎる。

 

 

昼飯用に持ってきていたペットボトルのお茶を頼りにそのまま頂上を目指すことにした。給水のためイチイチ止まるのがめんどくさい。ハイドレーションバッグの便利さを思い知った。案の定、脱水症状が現れて足がつりそうなのをだましだましヒイコラ登り続けた。

 

 

 

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浅間温泉から始まる美ヶ原林道は尾根の稜線上ルート。昔は有料道路だったようだが殆んど眺望がない。時折木々の間から松本盆地が見える。その先の北アルプスは、湿度の高い夏の空気に隠れてしまっていた。標高1800mを越えると濃霧というか雲の中に突入。

 

途中雨もぱらつき心細くなってきた。武石峠で敗退キメようか逡巡していると、「ここまで来て帰るのはもったいないですよ」と居合わせた同業者の助言を支えとしなんとか心が折れず登り切った。

 

美ヶ原自然保護センターの売店でようやく水分補給で息を若干吹き返した。それなりに観光客もいて心細さもなくなってきた。ここからさきは徒歩ルート、通信施設が立ち並ぶ小高い丘に向かいトボトボ歩く。

 

 

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テレビ中継塔があるあの小高い丘が最高地点の王ヶ頭だ

 

その魅力的な名につられアルプス展望コースに入ったが王ヶ頭回避の巻道でルートミスだった。結局その2039mの頂上は踏めなかった。多摩ニュータウンにありがちな胡散臭い命名だと思っていた美ヶ原は、その名にふさわしい絶景が広がっていた。ガスも晴れ、爽やかな風を味わいながら来てよかったぜと感慨にふけっていると、高山病の症状である動悸息切れと頭痛に見まわれ、休み休み歩みがますます遅くなった。

 

 

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アルプス展望コースからは絶景を楽しめる

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美ヶ原のシンボル美しの塔へ向かう。空気は清々しい

 

美ヶ原をビーナスライン側に抜けたのが15:30すぎ、計画を大幅に遅れ霧ケ峰を抜け下諏訪へ降りようとすると日没には間に合いそうにない。ここで敗退を決意した。眺望がひらけ開放感あふれるビーナスライン側も激坂だが車が多くチャリで登るにはちょっとイマイチ感あり。

 

 

高度1800mくらいで高山病が解消された。予め準備しておいた敗退ルートのアザレアラインで松本市街に降りた。最近ハマっている地元の農協の農産物直売所に立ち寄り、松本市山辺産の安芸クイーンという品種の大粒ブドウを購入した。

 

 

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黄色いケロリンの桶が備え付けられた昭和の風情が残る駅前の温泉でさっぱりとし帰り支度を整えた。18:35発の特急あずさは指定席がとれず鈍行でチンタラ帰宅の途についた。18:37発の3両編成の大月行きは同じように東京方面へ向かう乗客でごった返していた。一気に現実の日常に引き戻された。ガタガタゆられているうちに眠りに落ちた。

 

 

週末の小さな大冒険その2(大弛峠~金峰山~中津川林道)

2019.10.05-06

 

その2、金峰山攻略編。

 

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ここが登山口

 

12:01 大弛峠(2360m)を出発。シラビソの森を抜けていく稜線上の一本道。迷うことはない。途中ガレ場、岩場あり山歩き用のシューズは必須だ。

 

僕はこの山行に準備した登山道具は
ニューバランス573トレッキングシューズ
・軍手
・マルチカム迷彩のブーニーハット
・アルミ蒸着のサバイバルシート
・ブラックニッカ

 

シューズは捻挫防止と足先の保護。軍手は定番のミリタリーグッズ。汗もふけるしチャリの修理に使ってもいい万能アイテムだ。ブーニーハットはなんとなくカッコつけ。ショボい装備でど素人丸出しだけど、それなりに箔がつくだろうとの思い込み。サバイバルシートはお守り代わり。ブラックニッカは万が一、天候悪化時の低体温症を防止するための気休め、そして単純においしいから。

 

 

軽装備な僕は機動力と柔軟性で勝負。

 

 

出発が遅くすでに下山客がメインだ。狭い一本道を我れ先にわが道を急ぐ人が多く優先もへったくれもない。ここは通勤時間の新宿駅か?と一瞬ムッとしそうになるが、まっ気にすんな。休日を楽しもうとグッと飲み込み僕は余裕をかましてニコリと道を譲りお気をつけてと声をかけた。ここに日本サッカー協会の審判員がいたらそのフェアープレー精神と紳士的振る舞いにグリーンカードもらえるぜ。

 

 

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しらびその森を抜けていく

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この後は雲が出てきて見えなくなった

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谷筋をひたすら上ってきたのだ

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朝日岳から大弛峠を振り返る

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金峰山と五丈岩がほぼ同じ目線の高さで見える

 


薄い空気に息が切れぎれに起伏に富む稜線上をグイグイ進む。一気に眺望が開けた。頂上と五丈岩、そして瑞牆山を見下ろす絶景が広がった。

 

 

そして混雑する岩場に取りつき13:47にとうとう山頂を踏んだ。

 

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瑞牆山と韮崎方面。ナカータの出身地だ

 

 

その先に金峰山の山容を特徴づける五丈岩が見えた。その名の通り15mほどの岩塊が天に向かってそびえ立つ。自然にできたのかそれとも誰かがなんらかの理由で積みあげたのか、どちらにも見える奇岩だ。なぜこんなところにあるのだろう。うまく言葉にできないが、その人知を超えたたたずまいに神々しさと自然の力を同時に感じた。

 

地元の人はこの岩を御神体として登るようなことはしない。僕は敬意を表してそれにならった。

 

 

 

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山頂と不思議な五丈岩

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なんでこんなところにこんなものがあるんだ?

 


15:00を過ぎると薄暗くなってきた。大丈夫なのはわかっているが、本能的に少し心細くなってきた。なるほど、登山の基本は早朝出発だということを理解した。

 


宿に戻り17時からの夕食まで1時間強ある。僕は水場で顔を洗い濡れタオルで身体を拭きサッパリした。すこし冷え込んできた。でもこの静かな自然を出来るだけ楽しみたい。表のベンチに腰掛けミックスナッツをつまみにブラックニッカを飲りながら至福のひとときを過ごした。

 

夕食後は山小屋らしく薪ストーブにあたりながら泊まり合わせた人たちと談笑タイム。僕はいつになく社交的に会話に参加し自転車で登ってきて金峰山を踏んできた話に皆びっくりしていた。20時半の消灯前に眠りに落ちた。

 

 

23時ころ目が覚めた。さすがに足腰が火照るように痛む。持って来たことを思い出した外用鎮痛消炎剤を持って外に出た。吐く息が白くなる冷んやりとした空気の中ベンチに腰掛け空を見上げると吸いこまれそうな漆黒の夜空に満天の星と天の川が浮かんでいた。

 

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至福の時間

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山小屋って感じだなぁ

 

 

 

山にまで行ってあまり時間に追われるのは好きではないが、今回はギリだったので記録に残しておこう

12:01 出発 2360m
12:26 朝日峠 2425m
13:00 朝日岳 2579m
13:47 金峰山 2599m
13:56 五丈岩
14:52 朝日岳
15:17 朝日峠
15:42 帰着

 

金峰山登山ルート&コースタイム

www.yamakei-online.com

 

 

 


サイクリストにとって宿は次の2拓だと思う。ほかの民宿の前を数件通ったが、設備的にも場所的にもつまらなそうだ。

 

 

大弛小屋 (大弛峠にある山小屋)

http://oodarumi.jp/

 

金峰山荘 (村営森の中の山荘、大浴場が魅力的)

http://w2.avis.ne.jp/~mawarime/

 

川上村観光マップ(公式) - ネットにはない宿泊施設も載っているよ

http://www.vill.kawakami.nagano.jp/www/contents/1489401429462/index.html

福智院 (180502)

 

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『グウッドモオニン、レディースアンドジェントルマン、ボンジュール、ボンジョルノ、ブエノスディアス、ニーハオ、おはようございます。』厳かな雰囲気からまったく予期していなかったボヘミアンな挨拶に一撃を受けた。

 

それまでの心地よいスイングビートに揺られ、睡魔に失いかけていた私の意識が一気に引き寄せられた。

 

 

朝の勤行での読誦を無事に終えた福智院の法師は慣れた言い回しで法話を始めた。

 

高野山、福智院。創建800年を越える名刹だ。朝6時にお勤めのため本堂に60人以上が集まった。お坊さん4人による読経とタイミングよく打たれる磬子の澄んだ響きのみが御堂に響き渡る。

 

薄暗い本堂に、ろうそくがほんのりと淡い光を放つ。中央正面に仏像がやんわりと浮かび上がり、相対するように着座する僧侶がお経を唱える。ベルナルドベルトリッチ監督作品のような淡い色づかいの空間演出の中、皆見よう見まねで焼香していく。

 

 

こうべを垂れ、耳を澄まして読経に聞き入ってみると韻を踏んだアダージョでグルーヴ感たっぷりな4ビートが心地よい。いつのまにか心の中に静寂が訪れていた。アンビエント・ミュージックの大御所ブライアン・イーノも裸足で逃げ出す魅力的な癒し系音響効果だ。

 

今朝は宿坊に104人の宿泊客、内44人が外国人だ。法話は寺の由緒や先祖の供養、ありがたいご利益について触れさらに原爆投下や来たるべく東京オリンピックについて言及し最後にこうしめた。

 

『ノーバイオレンス、ノーウェポン、ノーウォー。ウィープレイ、ワールドピース、フロム、コウヤ。』

 

まさにジョンレノンの世界観だ。目から鱗が落ちた。抹香臭い湿気たもんだと思っていた仏教やお経が、実は洗練されたエンターテイメントでありそしてシンプルなロックンロールだった。

 

歴史的に見れば、その信者のほとんどが生産手段を所有しないプロレタリアート小作人だ。教育機会も十分になく知識・教養のない糊口をしのぐ下層階級。そのような一般大衆に向けて弘法大師空海の教えを広めていく。コムズカシサより分かりやすさが重要だ。

 

そして時代に合わせ宿坊体験という興味本位で集まって来ただけの人々のレベルに合わせ、そのご縁を最大限に活かすべく仏の教えに触れるきっかけをわかりやすく噛みくだき広めていく。くどすぎない謙虚な姿勢。必要あれば外国語だろうが関係ない。名刹の法師となれば、そんなの若いモンに投げて奥に引っ込み歴史と伝統の上にふんぞり返って美味しい上澄みだけすくっていれば良いものを自ら率先していく。敬意を払うべきなかなかできない取り組み姿勢だ。

 

『強いものではなく、変化できるものが生き残る』チャールズ・ダーウィンの進化論を裏付ける良い事例だ。今まで800年以上続いてきたように、この古刹はこれから先もずっと末永く続いていくのだ。

 

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高野山奥の院へ続く墓地。歴史を刻んだ人物が数多く眠る。あの世じゃ敵も味方も関係ないぜ。

 

福智院

https://www.fukuchiin.com/

週末の小さな大冒険その1(大弛峠~金峰山~中津川林道)

2019.10.05-06

 

週末の小さな大冒険その1【大弛峠~金峰山中津川林道】 (191005-06)

Bike&Hike 122km 獲得標高3128m

 

 

 

一年ぶりのお泊りライド。攻略目標は数年ぶりに開通したダートの聖地、中津川林道。そのアプローチには日本一のヒルクライムルート大弛峠(標高2360m)と金峰山(標高2599m)山行も組み合わせた欲張りなお楽しみだ。

 

ド素人が無理して標高2300mを超える山中で時間切れ、暗中模索は避けたい。そのため目標時間とデッドラインを設定しておく。この時間までに間に合わなければ回れ右して潔く撤退する。

 

 

作戦当日の日の入りは17:32。その一時間前の16:30までに活動を終わらせたい。ゴールから逆算で時間設定を行っていく。登山パートの大弛峠~金峰山往復のコースタイムは4時間半。なので12:00には大弛峠に到着している必要がある。中間地点の朝日岳に13:00。金峰山には14:30が目標タイムだ。それぞれプラス30分をデッドラインとした。

 

自転車パート。登山装備への準備と休憩を考えると大弛峠着は11:45が目標だ。始発電車で塩山着は6:51。出発は余裕を持って7:30とすると登坂時間は4時間15分。

 

これが時間割だが正直ヒルクライムが間に合うか心配。距離29.5km。標高差1886mの日本一の登坂ルート。ヤビツ峠が11.8km。標高差676mだから、クライマーのSI単位系への変換を行うと3ヤビツ。ヤビツ3回分かぁ。身近な単位に落とし込むとなんとなく実感できたが、わかったようなわからんようなモヤモヤっとした気持ちだ。

 


入念な準備を整え、ワクワクしながら眠りについた。

 

 

甲斐の起伏に富む山々が青空に映える。透明感溢れる朝、山梨県営林道川上牧丘線に取り付く。


塩山駅で同じ電車で到着した絶滅危惧種マウンテンバイカーに、同類としての関心と勇気を持って挨拶してみる。なんと登山パートは除き同じ道程を計画とのことだ。泊まりは川上村。10分ほど雑談しお互いの旅の無事を祈った。僕は9kgになるバックパックの中身を丁寧に整え後から出発だ。

 

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400年以上野郎どものココロを捉えて離さず永遠に輝き続ける惹句「風林火山」戦国最強のコピーライターの武田信玄


途中おばあさんや、軽トラのオッチャンからはガンバレーと応援を受ける。なんだか気分のいい土地だ。僕は大きな声で挨拶し珍しく社交的に振る舞う。見ず知らずの人と挨拶しあうというのは新鮮で気持ちのいいことだ。一日が豊かになる気がする。

 

今回は長丁場なので時間を決めて休憩を取ることにした。毎正時を目安に最低一時間に一回。バイクを降りてきちんと休息。そして腹が減ってようがいまいが、ちゃんと行動食を補給する。あとは気になったら自転車を止めて写真撮影で小休憩しとにかく無理は禁物。

 

 

見晴らしのいいぶどう畑で休憩し写真を撮っていると駅で挨拶したマウンテンバイカーが追いついてきた。すこし言葉をかわしお先に失礼した。またの再会を少し期待していたがその後会うことはなかった。一期一会ってこういうことなんだろうなと後から思った。

 

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クリスタルラインを淡々と登り2時間強で乙女湖の先の牧丘第一小学校柳平分校へ到着、標高1500m。自動販売機でスポドリ購入し大休止をした。案内板には残り15km。だいたい半分、いいペースだ。

 

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柳沢分校、現在は休校。うらやましい環境だ




 


そこから川上牧丘林道へ合流、大型車の通行は規制されておりサイクリスト的には安心だ。カラ松の森の中をギコギコ自転車を漕ぐ。気持ちのいい天気においしい空気、生きていてよかったと思えた。残り10kmくらいから一キロごとに表示がありそれを励みに黙々と進んでいく。

 

 

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ワオ!の五丈岩


  

途中視界が開け谷越しに金峰山の五丈岩が見えた。思わず出た言葉は「ワオ!」俺はアメリカ人か?大丈夫か俺?オマエちょっとヤなやつになりつつあるんじゃないかと自己嫌悪に陥った。正しい日本語ではこういうときは「お~」とか「うわっすげえ」とか「マジかよ」というべきなんだろう。でもチャリをゼイゼイ言いながら3時間以上漕ぎ続けているなか、そんな長いフレーズは出てこない。色々悩んだ末、やっぱ「ワオ!」がこの状況では正しい感嘆詞であると結論づけた。

 

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サイクリストのオアシス。湧き水(場所は下の地図を参考にしてね)

 

 


残り1km近くになって駐車場から溢れた登山客の路上駐車が多くなる。そして稜線に峠が見えてきた。4時間半かけてとうとう大弛峠を踏んだ。山小屋にチャリをデポし、靴を軽登山で長年愛用しているニューバランス573のトレッキングシューズに二足目のワラジを履き替え、山小屋のオヤジに半ば呆れられながら金峰山へ向けて正午過ぎに出発した。ヒルクライムの途中で見かけたワオ!の五丈岩を目指すのだ。

 

 

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チャリをデポして二足目のワラジに履き替える

 

 

 

※ネットで見つからずタイム設定に若干困ったので実走記録から目安をまとめる(それぞれの地図は下の方を見てね)

1時間後 金桜神社 10.4km 平均斜度4.1%

2時間後 柳平分校 10.0km 平均斜度6.3%

3時間後 桜沢橋 6.7km 平均斜度3.8%

4時間後 荒川の橋 5.4km 平均斜度7.4%

4時間半 大弛峠 3.6km 平均斜度6.9%

 全体 塩山駅~大弛峠 35.6km 平均斜度5.2% +1939m 4時間半

 

 

 

 

 

 

1時間後 金桜神社 10.4km 平均斜度4.1%

 

2時間後 柳平分校 10.0km 平均斜度6.3%

 

3時間後 桜沢橋 6.7km 平均斜度3.8% (OSMで見るとわかりやすい)

 

4時間後 荒川の橋 5.4km 平均斜度7.4%

 

記事に出てきた湧き水。縦のヘアピンカーブの3つ前の左曲がりカーブのちょっと先の右手

アリタリア航空 AZ350便 08h25ミラノ・マルペンサ-09h50パリ・オルリー (180417)

15分遅れで飛び立ったポンコツエンブラエル機の窓に張り付いていると遠くにマッターホルンが見えた。南蛮の槍ヶ岳だ。で、モンブランもバッチリ見える。すなわち白山だ。高度25000ftの成層圏で気の抜けたコーラを啜りながらええ眺めやのうと風情を楽しんだ。この操縦士分かってるじゃん 

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モンブランの山容、美しいなぁ。いつか登ってみたいもんだ

グーグルマップ3Dビュー

https://goo.gl/maps/Yz4KT2gUtk6ePk8Z9

 

オルリー空港の26滑走路に軟着陸キメたが、モタモタしてたら駐機場が取られちゃったと。10分ほどウロウロしえらい中途半端な場所になんとか駐機するも今度は乗降用の階段の空きがないからしばらく待ってろとのお達し。結局始発便なのに一時間近く遅延した。とぼとぼと駐機場を歩きながら経営再建中のアリタリア航空らしい迷走を実感した 

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ジュネーブ上空

グーグルマップ3Dビュー

https://goo.gl/maps/ikomQS2cjJugm4BZ8

 

FlightAwareによる飛行ルート

ja.flightaware.com