銀輪日報

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福智院 (180502)

 

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『グウッドモオニン、レディースアンドジェントルマン、ボンジュール、ボンジョルノ、ブエノスディアス、ニーハオ、おはようございます。』厳かな雰囲気からまったく予期していなかったボヘミアンな挨拶に一撃を受けた。

 

それまでの心地よいスイングビートに揺られ、睡魔に失いかけていた私の意識が一気に引き寄せられた。

 

 

朝の勤行での読誦を無事に終えた福智院の法師は慣れた言い回しで法話を始めた。

 

高野山、福智院。創建800年を越える名刹だ。朝6時にお勤めのため本堂に60人以上が集まった。お坊さん4人による読経とタイミングよく打たれる磬子の澄んだ響きのみが御堂に響き渡る。

 

薄暗い本堂に、ろうそくがほんのりと淡い光を放つ。中央正面に仏像がやんわりと浮かび上がり、相対するように着座する僧侶がお経を唱える。ベルナルドベルトリッチ監督作品のような淡い色づかいの空間演出の中、皆見よう見まねで焼香していく。

 

 

こうべを垂れ、耳を澄まして読経に聞き入ってみると韻を踏んだアダージョでグルーヴ感たっぷりな4ビートが心地よい。いつのまにか心の中に静寂が訪れていた。アンビエント・ミュージックの大御所ブライアン・イーノも裸足で逃げ出す魅力的な癒し系音響効果だ。

 

今朝は宿坊に104人の宿泊客、内44人が外国人だ。法話は寺の由緒や先祖の供養、ありがたいご利益について触れさらに原爆投下や来たるべく東京オリンピックについて言及し最後にこうしめた。

 

『ノーバイオレンス、ノーウェポン、ノーウォー。ウィープレイ、ワールドピース、フロム、コウヤ。』

 

まさにジョンレノンの世界観だ。目から鱗が落ちた。抹香臭い湿気たもんだと思っていた仏教やお経が、実は洗練されたエンターテイメントでありそしてシンプルなロックンロールだった。

 

歴史的に見れば、その信者のほとんどが生産手段を所有しないプロレタリアート小作人だ。教育機会も十分になく知識・教養のない糊口をしのぐ下層階級。そのような一般大衆に向けて弘法大師空海の教えを広めていく。コムズカシサより分かりやすさが重要だ。

 

そして時代に合わせ宿坊体験という興味本位で集まって来ただけの人々のレベルに合わせ、そのご縁を最大限に活かすべく仏の教えに触れるきっかけをわかりやすく噛みくだき広めていく。くどすぎない謙虚な姿勢。必要あれば外国語だろうが関係ない。名刹の法師となれば、そんなの若いモンに投げて奥に引っ込み歴史と伝統の上にふんぞり返って美味しい上澄みだけすくっていれば良いものを自ら率先していく。敬意を払うべきなかなかできない取り組み姿勢だ。

 

『強いものではなく、変化できるものが生き残る』チャールズ・ダーウィンの進化論を裏付ける良い事例だ。今まで800年以上続いてきたように、この古刹はこれから先もずっと末永く続いていくのだ。

 

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高野山奥の院へ続く墓地。歴史を刻んだ人物が数多く眠る。あの世じゃ敵も味方も関係ないぜ。

 

福智院

https://www.fukuchiin.com/