2019.09.14
激坂を攻略し一息ついた後、達成感とともに下る坂道はサイクリストにとって至福のひと時だ
しかし突然ブレーキが効かなくなり速度制御を失うと一瞬にして恐怖の時間に変わる
サイクリストは色々な沼にハマってしまう。僕はいわゆるブレーキ沼という泥沼に落ちた。これはその苦難の物語だ
ブレーキは、運動する物体を減速、停止させる制動装置。物理的には運動エネルギーを摩擦力で熱エネルギーへ変換する。寒い冬のライドでかじかんだ手を擦って血の巡りを回復させるのと同じこと。スポーツ自転車では、ゴム製のブレーキシューでリムを挟む、もしくはブレーキパッドでローターを挟むことにより摩擦力を起こし熱を発生させるわけだ
その運動エネルギーの公式は、K(運動エネルギーJ)=1/2M(質量kg)V(速度m/s)^2(二乗)だ。学生時代はこんな公式僕の人生の役に立つことはないだろう、 こんなことになんの意味があるんだ?と斜にかまえていたが巡り巡ってこの公式に再会した
まさに
スティーブ・ジョブズの有名な
スタンフォード・スピーチに出てきたコネクティング・ドットというやつだ。そのときには有用性が理解できなくても、将来跡から振り返ってみると点と点が繋がったわけだ。この点は未来に向かってつなげることはできず、過去を振り返って繋げられるだけ。よって今手掛けていることが将来どこかでつながると信じて一生懸命に取り組むことが大切なのだ。今一度、自分に言い聞かせた
この公式をサイクリストにあてはめてみると体重60kgの人(Aさん)と、体重90kgの人(Bさん)が同じ速度で走っていた場合、Bさんの方がAさんに比べ50%増しの運動エネルギーを持っている。その分ブレーキをかけて停止する際に必要なエネルギーは大きくなるわけだ。そのためブレーキにかかる負荷(すなわち熱)も50%増しと言える
モノには耐熱温度があり、ブレーキをかけ続けどんどん熱を発生させていくと、
リムブレーキの場合、熱でチューブがパンク。ディスクブレーキの場合、パッドの摩擦材に含有された樹脂成分が一定の温度と超えると溶け始めブレーキとバッドの間に成膜し摩擦係数を極端に落としてしまう。これがフェードと言われる現象だ。一旦フェードを起こすとブレーキを力の限り思いっきり握ってもブレーキが滑ってしまい全く止まらない。激坂の下りでは、恐ろしくてもう乗っていられない。そして一度フェードを起こしたブレーキパッドは変質しもう制動力は回復しない
初期装備のテクトロ
Novelaディスクブレーキはエントリークラスバイク向けのベストセラー。直径23mmという十円玉大の小さなブレーキパッドに命を預ける。普段使いの街乗りレベルならなんの問題もないのだが、特に気温の高い真夏の峠の下りという連続した熱負荷がかかる場面では
フェード現象を起こしてしまう。メタルパッドに変えてみたが、軽動力が強くなる代わりにキャリバーの剛性不足を感じたり、音鳴りでキーキーうるさく快適なライドを楽しめない
次に
シマノのM-375というDeoreクラスのブレーキキャリパーへの換装を実施。さすが安心の
シマノだカッチリとしたブレーキ感。パッドは純正のレジンパッドを使用した。音鳴りは消えたがフェードが再発。ローター径を160mmから180mmへ大径化した。しかしフェードは収まらない
ネット検索を駆使して最適解を探す。
輪行派の僕はできれば機械式ブレーキを使い続けたい。なぜなら、梱包時逆さにすることによるエア噛みや、ブレーキの加熱でベーパーロック現象による制動力消失を避けたいためだ。そしてベスラというブレーキパッド専門ブランドを見つけた。走り屋向けのアフターマーケット向けアップグレードパーツ専門業者。自転車用にも事業展開した。ブレーキパッドのカタログの能書きを穴のあくほど眺め、用途の合いそうな3種類を試験運用した結果、
クロスカントリー向けモデルBP026が
ランニングコストと性能のバランスを考慮し最も快適、安心に使えるとの判断に落ち着いた。その後指定買い銘柄として僕のライド・ライフに欠かせない重要部品の一つとして活躍している。奥武蔵GL、大弛峠、
富士スバルライン、乗鞍
スカイラインなど日本有数の激坂ももう安心だ
ちなみにブレーキレバーは左前にしている。たまたまスポーツバイクを買ったときに左前ブレーキの設定だったからだ。あまりよく考えたことはなかったがなれてしまえば、左前ブレーキのほうが都合がいい。左手をブレーキレバーに常に残せるということは、左側通行を考慮に入れて
・ハンドサイン
・ボトルに手を伸ばす
・身体を捻って後方確認
・ベルを鳴らす
などの操作系を右手で行えるという点が良い。しかしながらあくまでもブレーキ操作しやすいことが優先事項だ
ブレーキへの入力の前後比率については体得が必要だ。路面の状態とブレーキとタイヤの性能、そして重心で変わってくるためだ。前後バランスよく操作しブレーキの性能を引き出すテクニックとなる。ブレーキを掛けると
慣性の法則により重心が前よりになり前輪に荷重がかかる、後輪からは抜重となる。ブレーキ力も応分に前後調整し、大雑把に言うと前6~7割、後ろ3~4割の感じで調整する。また
体幹による重心調整も重要だ。斜度が大きくなるにつれて身体を後ろに移動し、極端に前輪にのみ荷重がかかったり、後輪がロックしないように調整する。前輪のロックは即転倒につながるため危険だ。後輪のロックはオフロードのトレイルを走っている場合、路面の土を削ってしまう。そこから溝が大きく成長するきっかけとなるのでマナーとしてスキッド(車輪をロックさせて滑らせる)は避けるべきだ。また
コーナリング中はグリップ力が落ちる(進む方向と曲がる方向にベクトルが分散する)のでブレーキは避けること
まとめ
- 体重がある。気温が高い夏。長い下りでのブレーキの連続使用で自転車のブレーキもフェードすることがある。フェードとは制動力が極端に落ちてしまうこと
ブレーキの制動力や信頼性に疑問を感じた場合
- ブレーキクリーナーでパッド、ローターやキャリパーをきれいに清掃する
- パッドをレジンからメタルに変更してみる。ただしキーキー音鳴りが大きくなる場合がある
- アフターマーケット品を試してみる
- ローター径を一つ大きくしてみる
- キャリパーのグレードを上げる
- 機械式から油圧式へ変更してみる(輪行派は機械式が良い)
ブレーキングは
- 前6~7割、後3~4割。両方バランス良くブレーキ性能を最大限に引き出すこと
- 前輪のロックは即転倒
- コーナリング中のブレーキはグリップを失いやすく危険。事前に十分に減速すること
おすすめパッド