ひさしぶりにヴォルドフ村の小さなホテルに投宿した。窓から眺める晩秋のエッセンの空はキリリと冷たく、そして通りは誘い込むような霧につつまれていた
日没までの小一時間、村を散策することにした。黒のジャケットをはおり両手をポケットに突っ込み背中を丸めてゆっくりと。通りで唯一の小さな雑貨店に立ち寄り水を購入した。のんびりと店番しているお婆さんに代金を支払い、覚えている数少ないドイツ語の語彙の中からダンケシェと丁寧にお礼を述べた。本当に小さな店で品揃えも限られているが、お婆さんが生計を立てるには十分に繁盛しているようだ。
枯れ葉舞う通りを抜けて村のはずれの森についた。霧の中、紅葉で黄色や赤に変わった木々に肌寒いなか青々とした西洋芝が絵になっていた。 小さなトレイルでは家族連れでのんびり歩いたり、犬の散歩をしたり皆思い思いにゆっくりとした時間を過ごしていた。やっぱり愛犬はジャーマンシェパードなんだ。引き締まった無駄のない大きな体躯、精悍な顔付きに知的な性格。生真面目なドイツの人達の気質にぴったりくるんだろうなあ
そして大きな池のほとりにたどりついた。その池には名前があることを知った。名前を知ることでなんとなく親近感がわいてくる。不思議なものだ。前回訪れた初夏には多くの釣り人で賑わっていたがいまは誰もおらず霧と静寂につつまれていた。静かに冬の訪れと、その名の意味するとおり天使の降臨をじっと待っているようだった。しばらく景色を愛でた。寒くなってきたので、エンゲル・タイヒ、すなわち天使の池を後にし家路についた