銀輪日報

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ロンドン・サイエンス・ミュージアムとロケット野郎バカ一代ブラウン博士 (151107)

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サイエンス・ミュージアム@ロンドン

1944年9月8日ナチスのV2ミサイルがロンドンを襲った。その日彼はこう言った『ロケットは完璧に動作したが、間違った惑星に着地した』。1928年ベルリンの展示会に出品されたロケットエンジンを前に、『皆さんが生きている間に、人間が月面で仕事をする様子を目にすることが出来るでしょう』と詰めかけた大勢を前にしてそう言った。1932年宇宙旅行協会員だった当時学生で若干20歳のブラウン博士はアルバイトのタクシー運転手での軍の高官との邂逅から、ロケットの開発資金を求めてドイツ陸軍兵器局へでの仕事を得た。1942年10月3日ロケットは人類初の宇宙空間へ到達した人工物となった。

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ロケット野郎バカ一代・ブラウン博士、ナチだろうがケネディだろうが俺の生涯の夢のためには誰とでも手を組むぜ

V2は自律航行型弾道ミサイルナチスの超ハイテク兵器だった。しかし、その開発には湯水のように資金を費やし、米国の原子爆弾開発計画マンハッタンプロジェクトと同様の約2.5兆円が使われた。積載量1,000kgで射程距離320kmのそのミサイルは科学的には非常に優れたものであったが、戦略的にはほぼ意味がないものでありナチスの劣勢を覆すことはできなかった。一方対日戦に使用されたマンハッタンプロジェクトの成果物である原子爆弾は約5トンの重量があるがB29によりテニアン島から2,400kmの距離を運搬、投下された。戦争とは外交の一形態である。それぞれのプロジェクトが成し遂げた政治的効果はその後の国際政治史に複雑に絡み合った。

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宇宙開発史の金字塔V2ロケット。この地ロンドンを散々脅かした

結局彼がナチスのもとで取り組んだプロジェクトは時代を先取りしすぎたのだ。結局ロケット技術は、核兵器の優れた運搬手段として大陸間弾道弾の米ソ間での開発競争や、月への有人飛行計画として昇華していく。

ドイツの敗戦が濃厚になる頃、ブラウン博士は開発資料とサンプルをまとめ米国への亡命を図った。米国ではその経歴から白眼視された。ナチの科学者であり、そしてその裏切り者であると。倒産寸前の企業の開発部長が部下とともにライバル企業に転籍するようなものだ。それでもロケット開発への情熱を持ち続け1969年7月20日、彼が開発指揮したサターンVロケットにより人類を月に送り込んだ。

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アポロ計画用J2エンジン

14歳の時に出会った本に感銘を受け、宇宙旅行に憧れ続け、時には戦争に非協力的だとゲシュタポに拘束されながらも43年間諦めずについに夢を成し遂げた稀代のロケット野郎バカ一代、ヴェルナー・フォン・ブラウン博士の傑作を含め質の高い収蔵品が展示されているロンドンのサイエンス・ミュージアムを訪れた。

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ロケット野郎どものバイブル、「惑星空間へのロケット」byオーベルト1923年

産業革命の国らしく入り口は、やはり蒸気機関を集めたエネルギー・ホールから始まる。そしてその奥には宇宙開発コーナーだ。さらに自動車や機械や放送機器などの現代に至る技術史の展示。ボクの嗜好にピッタリの内容であっという間に時間が過ぎてしまった。一人でぶらりと博物館を訪れて興味の赴くままじっくりとそのコレクションを鑑賞する。なかなか贅沢な時間の過ごし方だ。

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回転式蒸気エンジン1797年英国の英雄ワット作

僕がちびっこの頃、夏休みの宿題で図書室から借りてきた当時人気の本、学研のひみつシリーズ。確かロケットのひみつというのがあった。夏の満月を見上げながら思った。僕が生まれる前にすでに月に人類は到達していた。一番エライ奴は、それをやってみようと着想を得た奴だと思った。そのエライ奴が、宇宙開発を志すきっかけとなる一冊の本から、その集大成となる月面着陸船までが収蔵されていた。

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月面着陸船。結構しょぼい。50年前の技術だしな。

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キュレーターの質の高さが伺われる逸品。あえて日野コンテッサ1300。しかもありがちな品川や横浜ナンバーではなく、あえて多摩ナン。

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地球はここを中心としてグルグル回るのだ

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世界を変えたV2ロケット1944年



サイエンス・ミュージアム

www.sciencemuseum.org.uk 

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