銀輪日報

本と自転車旅とB級グルメ

デーベーレギオ4716 カールスルーエ行き (191204)

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プロースト!と始まった宴会は、ヴァイツェンや地元産の赤ワイン、シュナップスと杯を重ねるにつれいつもどおりグダグダに荒れていった。僕は特別に用意されたバカデカいグラスのマグになみなみと注がれたストレートウイスキーを片手に立ち上がり見事飲み干し「ドイツの麦茶はうまいのう。でも飲み足りねえ、もっと持ってこい」煽りまくった。なめんじゃねえ。

 

そして乾杯の音頭は、いつの間にか伊仏ロマンス語のチンチンになり、しまいにはザックザックとかムシムシへと変わっていった。ズバリ、ドイツ語でチンチンとかオマンコ。お前ら小学生かよ。結局行き着く先は人類共通だ。偉大なオマンコに乾杯するしかねえ。

 

店じまいで追い出されるまで飲み続け、なぜかオリーブオイルの瓶を手にしていた。たしか店のオカミさんから頂いたはずだ。まあいいや。人通りのないクソ寒い表通りを肩を組んで闊歩し盛大にタバコをふかし、なんかよく分からん歌を歌いながら宿へ戻った。

 

翌朝もバーデン地方は雲ひとつないピーカンの空だ。駅まで車で送って貰った。最後にラッキーストライクを一本貰った。僕はお返しに未開封のセブンスターを胸ポケットへ滑り込ませた。タバコを吹かしながら言葉少なげに挨拶を交わした。名残り惜しいが去るものは日々に疎し。僕は気持ちよく回れ右して駅の構内へ向かった。

 

いよいよ最終旅程だ。ホームで空港へ向かう国鉄を待った。シュヴァルツヴァルトの稜線が雲ひとつない青空に映える。あえてカメラに収めるのはやめた。この美しく懐かしい景色は心の中にそっとしまっておくのだ。

 

いつも買い換えようと思うがなかなか踏ん切りのつかなかった使い古した安物のスーツケースがずっしりと重い。いつの間にか頂き物のワインやらジンやらが4本になっていた。チョコとかクッキーとか今年のクリスマスは豪勢に行けそうだ。

 

そうだ良い時も悪い時もいろいろ抱え込んでふらふらで目的地に向かって前に進むしかない。時々つまづいたり、道を見失って迷い込んだり、なにやってんだと非難されたり、時には転んで痛い目にあったり。そのたびに僕はなんてバカなヤツなんだと頭を抱え込み一人落ち込んでしまう。

 

僕はバカだけどそれでも構わない。なぜなら欠点のないヤツなどいないからだ。いたとしたらそいつはオマンコ野郎だ。そしてよく見て見ると周りの乗客も多かれ少なかれ何かしらの荷物を抱えている。手ぶらでは生きられないということだ。

 

仕方ねえ。重たい荷物を抱え込み遠回りしようがなにしようが少しずつ進んでいく努力を続ければいつのまにか強くなっているかもしれない。たとえ強くなれなくてもそれは僕に人生の味わいを与えてくれるはずだ。

 

失敗し、落ち込み、気を取り直しまた取り組んでみる。その先でしか望むものは手に入らない。前に進む努力こそが人生の闘いであり生をうけた意義なんだ。いつか振り返った時、ずいぶんと進んだもんだなと気づくことがあるかもしれない。ちょっと心細いけど別れの先のまだ見ぬ未来に新たな活路を見出していくのだ。

 

ライン地溝帯を北に向かった高速鉄道は速度を落とした。僕は旅行カバンの磨り減った車輪をガタガタと力まかせに引きずり、東京便三等硬座の搭乗手続きを待つクソ長い行列の最後尾に並んだ。