ソビエト連邦の崩壊とその後の国際情勢を見てきた僕らだから言えるわけだが、我々の文明の発達段階では社会主義は時期尚早な取り組みだったのだ。
学者たちは資本主義が成熟、昇華し社会主義に至るとした。その理想は財産の私有を廃止、また生産手段をも共有。そして得られた富を皆に平等に配分し公平な差別のない平和な社会だ。
しかし僕らは煩悩の日々に生き、些細なことに喜びまた苦しむ。達成感や喪失感を味わう。これらを超越したその先にしか平等な世界は拓けないのであろう。
実際に超大国の冷戦構造が自然崩壊後、民族主義が台頭し低強度紛争や地域紛争が多発し始め。そしていまだに民族浄化による虐殺が続く世界だ。
ジョンレノンは今も色褪せることのない音楽史に刻む1971年の傑作ナンバーで歌う
「想像してみよう。天国も地獄もない、殺す理由も死ぬ理由もない、国境も宗教もない、所有や強欲そして飢えのないそんな世界を」
彼は歴史に残る音楽家として成功し、十分すぎる富や名声を手に入れた。もはや足りないもののほうが少ないだろう。思いつくものすべて手に入れてしまえば、欲しいものはなくなるはずだ。そんな彼にしてようやく到達できる境地なんだろう。共産主義的なメッセージを含むこの曲は多くの政府やラジオ局で放送禁止処分を受けた。
残念な人生をただもがき苦しみ、思い悩んでいるだけの僕には遠い道筋だ。
満たされない想いに悩み苦しみ、恵まれた友人や、同僚、成功者に嫉妬し、だけど努力するわけでもなく日々に流されるだけの冴えない僕はロシアの歴史を見つめてきたこの美しい広場で、クレムリンの壁越しに夜空を見上げた。
バカな僕にも理解できたことが一つだけあった。
そこには確かに彼が歌う通り、僕らの上にはだた空があるだけだった。そしてその理想は手の届かないずっと遠いところで光り輝き続けるのだ。