銀輪日報

本と自転車旅とB級グルメ

赤の広場で社会主義の理想を思ふ (151026)

 
同志ラヴィノビッチと再会。いつものように控えめで静かな微笑みとともに握手をかわした。相変わらず眼光は鋭くペレストロイカ以降の混乱期を何とか食いつないできたその意志の強さを感じさせる。
 
 
 
モスクワ市営地下鉄で街の中心部へ向かった。駅構内や車内には商業広告が全くなく機能、実用重視で殺風景だ。首都を走る地下鉄だが20時前の時間帯に余裕で座れ意外と閑散としている。
 
 
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市中心部へ向かうにつれ駅は地下深くそして宮殿のように豪華な装飾が施されており美術館のようだ。一駅一駅異なる意匠を一日かけてまわりじっくりと鑑賞してみるというのも贅沢で面白そうな旅のテーマだ。
 

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地下鉄駅構内というよりも美術館のようだ

 

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ミニマリストな地下鉄



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味わい深い造形の地下鉄駅舎。なぜか懐かしい

 

 

小雨の降る赤の広場は人影もまばらで観光地につきものの土産屋やうるさい客引きは影も形もなく、寒々しくも静かに悠然と訪れる者を迎えてくれる。社会主義陣営の盟主として長年君臨してきた超大国の往時の繁栄が偲ばれた。
 

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国立歴史博物館


 

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聖ワシリイ大聖堂 1560年~

 

ソビエト連邦の崩壊とその後の国際情勢を見てきた僕らだから言えるわけだが、我々の文明の発達段階では社会主義は時期尚早な取り組みだったのだ。

 

学者たちは資本主義が成熟、昇華し社会主義に至るとした。その理想は財産の私有を廃止、また生産手段をも共有。そして得られた富を皆に平等に配分し公平な差別のない平和な社会だ。

 

しかし僕らは煩悩の日々に生き、些細なことに喜びまた苦しむ。達成感や喪失感を味わう。これらを超越したその先にしか平等な世界は拓けないのであろう。

 

実際に超大国の冷戦構造が自然崩壊後、民族主義が台頭し低強度紛争や地域紛争が多発し始め。そしていまだに民族浄化による虐殺が続く世界だ。

 

 

ジョンレノンは今も色褪せることのない音楽史に刻む1971年の傑作ナンバーで歌う

 

「想像してみよう。天国も地獄もない、殺す理由も死ぬ理由もない、国境も宗教もない、所有や強欲そして飢えのないそんな世界を」

 

彼は歴史に残る音楽家として成功し、十分すぎる富や名声を手に入れた。もはや足りないもののほうが少ないだろう。思いつくものすべて手に入れてしまえば、欲しいものはなくなるはずだ。そんな彼にしてようやく到達できる境地なんだろう。共産主義的なメッセージを含むこの曲は多くの政府やラジオ局で放送禁止処分を受けた。

 

 

 

残念な人生をただもがき苦しみ、思い悩んでいるだけの僕には遠い道筋だ。

 

満たされない想いに悩み苦しみ、恵まれた友人や、同僚、成功者に嫉妬し、だけど努力するわけでもなく日々に流されるだけの冴えない僕はロシアの歴史を見つめてきたこの美しい広場で、クレムリンの壁越しに夜空を見上げた。

 

バカな僕にも理解できたことが一つだけあった。

 

 

そこには確かに彼が歌う通り、僕らの上にはだた空があるだけだった。そしてその理想は手の届かないずっと遠いところで光り輝き続けるのだ。

 

 

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ロシアを代表する名門グム百貨店。閑古鳥が鳴く
 

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グム百貨店1893年~ 開店休業状態で少し心配になる

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モスクワの赤の広場、日本でいうと皇居前広場

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シェレメチェボ国際空港ターミナルビル