人口わずか千人の最果ての地ウーラクーム。北大西洋の冷たい風と荒波が海岸線に打ちつける。ノースデヴォンの短い夜が明け、重たい鉛色の空は今にも泣き出しそうだ。典型的なブリティッシュウエザーの歓迎を受け実に気分爽快だ。こののんびりした田舎町に1943年の秋、米陸軍によりノルマンディー上陸訓練センターが設置された。人口千人にも満たないこの寒村にヤンキーどもが何千人も押しかけてきてえらい迷惑だったに違いない。
栄光のビクトリア朝時代1887年に建設されたこのウーラクーム・ベイ・ホテルは、訓練センター本部として米軍に接収された歴史を持つ由緒ある宿だ。手間暇をかけて装飾されとんがり屋根のビクトリア様式の外観が美しい。
西洋芝の緑に映える前の広場では、滑舌の良いイギリス訛りで「ホールドオンタァーイト、ハニー」とお爺さんはブランコを揺らし孫娘は大喜びの微笑ましい光景が広がっていた。